手 その1

昔、テレビで見たのだが

キャバクラの面接官が

女性を面接する際

「手を見せて」と言う場面があった。

その面接官が言うには

「顔はある程度作れるけど

手は正直だ」というような事を

言っていた。

 

それが妙に腑に落ちてしまった。

 

手はその人の日常を表す。

もっと言えば

人生を表すのだと思う。

 

職業やその人の性格が作る手の表情は

もしかしたら

顔より多くを語るのかもしれない。

 

母方の祖母の手は

主に畑で作物を作る手であった。

 

祖母にとって暮らしとは

畑仕事をして

家族の食卓を豊かにする事だった。

 

祖母は肌の綺麗な人で

一緒にお風呂に入った時は

そのツルツルモチモチに

びっくり見惚れたけれど

顔や手といった

外にさらされる場所は

日に焼けてシワが刻まれていた。

 

そして祖母の爪はいつも黒かった。

 

畑仕事の度に土が爪の奥に入り

洗っても洗っても

間に合わないからだ。

 

拭い去ることの出来ない爪の土は、

そのまま決して消えない

祖母の家族への愛情、

その象徴だと私は思った。

 

手は人となりを表す。

 

一見、シワだらけの手や

黒い爪を見て

きれいだと思う人はいないだろう。

 

だけど祖母の手は

それに不満だっただろうか?

 

少なくとも家族の笑顔の為に

畑で動かされ、

とびきり美味しい作物を

生み出した祖母の手は

爪を黒くしながら

満足していたと思う。

 

祖母の心と共に

誇り高く笑っていたと思う。

これらは尊敬する叔母の作った作物

 

祖母の心は叔母の手に受け継がれた。

叔母の手は、休まず

まわりの人を幸せにしている。

ありがたい事に

盛岡にまで時々、愛の宅急便が届く。

「尊敬する叔母」は

最高にお茶目である。