みかんの花

「肩に手を置かれた時に

嫌だと感じなかったら

その人は 

結婚してもいい人なんだよ」

祖母はそう言って照れて笑った。

そして話は

「祖父との初めての握手」

になった。

 

富士山の見える場所。

静岡県の清水市(今の清水区)で

祖父は祖母が習い事をしていた家に

下宿していた。

 

ある日 お稽古事の帰り道に

一緒に歩く機会があった。

 

家の手前の曲がり角で

「じゃ、さよなら」と

祖母は自分から手を差し出して

握手をしたらしい。

 

「ごく自然にそうしたの」

「その時 垣根に

みかんの花が咲いていて

本当にいい香りがしてね...

 

ただそれだけの 短い話を

祖母が亡くなって何年経っても

私は反芻している。

 

二人の事を想う。

 

その時 世界は

昨日までとは

違って見えたんだろう。

 

ああ みかんの花が好きだ

この花の香りが好きだと

全身で祖母は感じていたのだろう。

 

私の父は

父親の記憶がない。

生まれたばかりの父を残して

祖父は出征し ガダルカナル島で

戦死してしまった。

 

私は何度も想像する。

 

本当に短すぎた

2人の暮らし。

その恋のはじまり。

 

娘の頃の祖母。

その差し出した手を見つめる祖父と

道に漂っていたという

みかんの花の香り。

これはりんごの木。

盛岡は今、りんごの花ざかりだ。


それを見ながら毎年思う。


みかんの花の香りって

どんなだろう。

どんなふうに咲いているのかな?


私は知らない。


憧れだけで

一度も直接見た事がない。

もし機会に恵まれるなら

二人が出会い暮らした

清水で見てみたいな。 


 

祖母が幼い私に教えてくれた

いくつかの手遊びの中で

「みかんの花咲く丘」を

歌い、手を合わせる時の

祖母の笑顔は特別だった。

 

だから 娘が生まれて 

今度は私が手遊びを教える時も

「みかんの花咲く丘」は特別で、

胸にあったのは

祖母との楽しい思い出だ。

 

しかし今、

歌詞の三番まで聴き終えると

別な気持ちが浮かんで来る。

 

「みかんの花が咲いている」

「思い出の道 丘の道」

で始まるこの歌は

 

「今日もひとりで見ていると

やさしい母さん思われる」

で終わるのだ。

 

「黒い煙を はきながら

 お船はどこへ行くのでしょう」

そして

「今日もひとりで見ていると」

と歌う時

祖母は祖父を想っていたに

違いないのだ。

 

#みかんの花咲く丘
#清水#風間#茶飴最高
#あんたっちゃみかん好きかね

#みちさんの想い