つゆくさ

 中学校の美術の実技テストで

描きたい花の絵を描いて提出するというのがあった。

 

私はつゆくさを描いた。

 

私の中で、つゆくさは祖母の花である。

 

ある日私が好きだと言ったら

祖母は自分の部屋から見える庭の

片隅に、つゆくさを少しずつ増やしはじめた。

 

祖母の部屋は、きれいなつゆくさの見える特等席みたいになった。

 

「あれ!つゆくさがいっぱい!」

と私が気がついたら

祖母は黙ってにっこり笑った。

普段の祖母らしからぬ

いたずらっぽい企みの笑顔。

 

その笑顔のきっかけを

自分が作ったのかもしれない

という事が

私は誇らしかった。

 

先生に「描きたい花」と言われて

迷わず私はつゆくさを選んだ。

 

つゆくさを描きながら

私が筆でなぞっていたのは

祖母の笑顔だったのかもしれない。

 

今、盛岡で暮らす私の家にも

小さな庭がある。

私はつい、窓から見える

あの場所とよく似た日当たりの所につゆくさを増やして

祖母の笑顔を反芻してしまう。

 

その季節、窓を開けるたび

つゆくさを介して私は祖母と何度も出会い、話を交わすのだ。

「つゆくさ」という名は
誰がつけたのだろう
ぴったりだと思う

#つゆくさ#祖母#描きたい花