額にシワがある。
この歳になれば、額にシワの1つ2つ出来るだろうという人もいるだろうが、私のこのシワ、なんと幼稚園の頃からあるのだ。
びっくりすると細い目を見開いて眉を上げる癖があるのだがそのせいか。
小さな頃から私はこのシワを前髪で隠して生きて来た。
「まだあげ初めし前髪の...」
で始まる詩を読んだ時も、
(いやいやいやいや、私はいくつになっても前髪上げませんから!)
(黒柳徹子さんがお手本ですから!)と思ってやって来た。
前髪を上げないのにはもう一つ理由がある。
私は自分の眉毛に自信がない。
姉妹の中で私だけ、薄いくせにゲジゲジなのだ。
化粧で眉を描く時も、どこの何を頼りに線を引いていいのか、心細くて手が震える。
眉一本描く度に、なぜ迷子の気分にならなきゃいけないのだ。
くそう。
女として憧れる人はたくさんいるが、まず、きっぱりと前髪を上げている人には敵わない気がしてしまう。
その敵わない感は、
すっぴんで綺麗に笑い、
堂々と背筋を伸ばしている人や、白髪染めをせず、
その年齢ごとの美しい佇まいを
手に入れている人にも感じる。
要は、丸腰の強さと品格、
その美しさか。
幼稚園の頃からコソコソ頑なに
自分の額を隠して生きて来て、
まだ一度も家の外で前髪を上げた事がない。
シワがあるのが当たり前の年になったら大丈夫かなと思っていたけれど、どうやらそんな単純な事ではないようだ。
私がきっぱりと丸腰の心を手に入れない限り、前髪は私の額から消えないのかもしれない。
ずっとアメリカで暮らして来た友人が日本に帰って来て、
盛岡に会いに来てくれた。
大切な、小学校からの親友だ。
彼女は「シワなんかあったっていいじゃない」と言って
ノーメイクで柔らかく笑っていた。
綺麗な笑顔だった。