あるギャラリーで隣に座った人に
突然、手を取られた。
(ななな何かしら⁉︎)
初対面で、まだ一言も話をしていないその人は、横から
私の左手をごく自然に自分に引き寄せたのだ。
年上の、エネルギッシュかつ
落ち着いた感じの女性で、
私は唐突なその行動に一瞬たじろぎ、
なす術もなく従ってしまった。
そしてその人は
いきなり私の手相を見て話し始めた。
私はギョッとした。
「タダで見てもらって
ラッキーだったわねー」と言う人もいるかもしれないけど
とんでもございませんよ!
だいたい私は普段から
雑誌の星占いだろうが
テレビで勝手に流れて来る
本日の占いとか、絶対に見たりしない。
もし病院や食堂のテレビで流れて来たら
目を閉じて耳をふさぐレベル。
「嫌いだから」とか「信じてない」とかじゃなくて、
思いっきり影響されるからです!
良い事を言われようが、
その逆だろうが、
一度目や耳に入ったら
なかった事には出来ないではないか。
それは心の隅に居座ってしまう。
だからその時も手を引っ込めたくてたまらなかった。
にもかかわらず、その人の話を聞き続けてしまった。
なんというか...柔らかい気迫に負けてしまったのだ。
こちらの顔を一度も見る事なく、
手汗が止まらない私の手をじっくり見て、
時おりひっくり返しながら言葉を繰り出して行く。
相当辛辣な事を穏やかな口調で淡々と言われた。
その人にとっては「単なる事実」のようだった。
その時言われた事は一つ一つ覚えているが、
中でも忘れられないひと言がある。
その人は最後に、
この手相から見える
「私という人間」を指し示す言葉を
探しているようだった。
そして
(あ、これだわ!)というように
顔を上げ、初めて私を真っ直ぐ見て、
晴れやかな声で言ったのだ。
「人非人ね!」
真っ正面から邪気のない笑顔で「人非人!」 と言われるのは後にも先にもないだろうと思った。
「私、手相を見れるんだけど、
少しでもその人の事を知ってしまうと、 その情報が邪魔して見えなくなってしまうの。
だから、お話する前じゃないとダメなのね。」
と言って、 その人は一つの仕事を終えたかのように晴れやかに笑った... のだが、オイオイ!
占いに影響されまくる
こっちはそれどころじゃないんですけど!
それからしばらく我が家では
「人非人!」が大流行りになってしまった。
美味しい物の最後の一個を
私が食べたりすれば
すかさず「人非人!」と叫ばれ
ちょっと辛辣な意見を出せば
「人非人!」と家族に指をさされてゲラゲラ笑われる。
しかし、笑い事にしながら
私は時々じっと手を見る。
もしや私は人非人なのか?と。