たわらや その1 ポタージュ

 故郷の川沿いに、
「たわらや」というレストランがあった。
 
作家の辺見庸さんが本の中で
「油絵がかかっていて、貧乏人は行けなかった」と書いていた、
あそこであります。
 
油絵もそうだが私がびっくりしたのは、広々した店の中、スタンドの上に吊るしてある金属製の鳥籠に、オレンジ色のカナリアがいた事である。
 
カナリアは綺麗な声で鳴いた。
私は口を開けて見上げていた。
 
決して「お金持ち」ではなかったが、テーブルマナーを教えようと張り切った両親に連れられて、めでたく妹と私のたわらやデビューとなった日。
私達の前にそれぞれ、ポタージュのお皿が置かれた。
真ん中に浮かんでいるパセリのいい香りにはっとする。
 
教えられた通り、音を立てずに、最後はお皿を少し傾けて上手にスープをすくって飲むまで、
小さな子供なりに、せいいっぱい気取っている。
行儀良く、背筋を伸ばして、
話をする時はいつもより小さな声で。
 
北上川を見下ろす窓からは広々とした流れと、その向こうに山が見える。
同じ風景は店の外でだって見ているのに、たわらやから見ると別の街のようだった。
 
上手く言葉には出来なかったけれど、その場所の醸し出す空気が、人の行動や態度を決めていく事があるんだなぁと、
子供心に感じていたような気がする。
 
たわらやに行くと、いつもの自分より3割り増し上品になって
(上品ぶって?)いたから。
 
さて、それから何年か後に、
私はそのたわらやで気取りまくり赤っ恥をかく事になる。
 
その話はまた今度。
 
たわらやの姿は、
写真を探すのは難しく、まして動画の映像など、存在する望みは薄く、心の中だけで思い浮かべてました。
 
ところが、嬉しくてたまらない事が!!
石巻の「珈琲工房いしかわ」さんの、“石巻の香り”というシリーズ。
 
その1つ1つのブレンドには、
石巻の色々な風景の絵が添えられています。
 
今の風景と共に、心で思い浮かべるだけになってしまった風景の絵も。
そうです!あったのです!
その中にたわらやの姿が!
 
嬉しくてありがたくて、
思わずたわらやバージョン多めで注文してしまいました。
 

#石巻#たわらや#ポタージュ