憧れの踊り

 腰が痛い。

 

でも、これくらいなら「ギックリ腰」までいかないよう気をつけていれば問題ない。

だてに30年以上も自己診断してるわけじゃない。

私はプロだ。

 

二十歳の時、事故で背骨を折った。

その後遺症なのか20代で椎間板ヘルニアに。

 

くしゃみの予感がするだけで、全身に恐怖と絶望が走るヘルニアの痛みの話はここでは置いといて、私の夢の話をしたい。

 

 

私はたくさんの夢を持っていた。

 

その一つが「踊り子」である。

 

小さな頃から、音楽が聞こえると体がクネクネする。

子供会の盆踊りでは大いに張り切り、踊りまくる。

 

小学校のお遊戯も中学校の創作ダンスも、恥ずかしがって嫌がる友達の手前、同じように「やだ〜」って言いながら体はクネクネしている。

 

日舞やバレエを習う機会などないまま、美術部に入って絵を描くうちに、私の夢は「絵描きさん」になっていった。

 

「踊り子」の夢を思い出したのは岩手県に来てからである。

 

大学で絵を描き、パン屋さんでアルバイトをしていたが、ある夏、店の外から太鼓の音が。

 

その時「さんさ踊り」を初めて見た。

 

それは強烈な体験だった。

 

こんな盆踊り見た事ない。

(かっこいい!)

(かっこいいよー!)

 

お客様がいないのを幸い、私は店の外で立ち尽くした。

体の芯がブルブル震えて、

(何で私はただここに立っているんだ。)

(どうしてあそこで踊っていないんだ!)

と悔しくて仕方がない。

 

踊る阿呆に見る阿呆というが、

(踊らにゃソンソン、大損だー!)って思った。

 

 

結婚し、娘が生まれ、町内会で一緒にさんさ踊りを覚えたり、幼稚園の父母会でパラパラを踊ったり。

壊れた腰を抱えているわりには、私の夢は順調に進んで来たと思う。

 

今、何とかモノにしたいともくろんでいるのは「安来節」である。

「どじょうすくい」ってやつね。

どうせなら男踊りの方。

 

あれは、手ぬぐいとザルさえあれば、1人でも出来る。

最近は親切なプロがYouTubeに上げてくれて細かい指導まで入っている。

 

 

  

 

熱心に見ている私を主人が慌てて止めた。

「この腰の動き、お前には無理だ」

 

いつかこっそり体得して、「強い腰になったわよ」と主人を安心させたい。

#さんさ踊り#どじょうすくい#安来節