思い出すだけで心が痙攣してしまう、あの日あの時というのがある。
小学校二年生のお遊戯会だ。
私は踊るのが大好きな人間だったから、お遊戯自体は決して嫌いではなかった。
しかし、あれはないだろう。
いくら何でもあの日の私は踊りに身を捧げすぎた。
思い出すだけで横隔膜まで痙攣しそうだ。
「明日は小人の踊りのお遊戯をします」
「おうちの方々が見に来ますよ」
「帰ったら家でお父さん、お母さんに頼んで、トンガリ帽子を作って来て下さい」と、担任の先生は画用紙を配った。
「こんなふうに、頭に合わせてクルッとまいて、のりかセロテープでとめてね」
「色をぬったり、折り紙で模様を付けてもいいですよ」
ここまでならよかった。
「でも、作る時間がなくて、お家に小人の帽子と似たような物がある人は、それを持って来て使ってもいいですからね」
先生の話を私から伝え聞いた母親は画用紙を前に何か考えこんでいた。
そしてやおら夜なべを始めたのである。
母は母親として素晴らしい人だった。
惜しみない愛情を注いで私達姉妹を育てようと一生懸命だった。
事実その夜も、まだ3番目の妹は赤ちゃんで、母も忙しく眠かっただろうに、私の小人の帽子の為、トンガリ帽子ではなく、手持ちの帽子ではなく(より絵本に出て来るような小人の帽子らしい帽子を!)と、一晩かけていちから手作りをしたのだ。
「そのちゃん!出来たわよ!」
次の日の朝、意気揚々と渡された帽子らしき物を見て私は愕然とした。
それは3番目の妹の赤いタイツを片足切って縫い合わせ、残った足先に毛糸のポンポンをつけた物だった。
母なりに大いに写実的に小人の帽子を再現したのだろう。
しかし、これは...
誰がどう見てもタイツだろうが!
かぶるのか?
これをかぶるのか?
そして皆の前で踊るのか?
追い詰められた私の顔を見て、母も自分の意気込みが何かから大きくズレていた事にじわじわ気がつき始めた。
しかしもう遅い。
踊ったかって?
踊りましたとも!
ホーイホーイのドンジャラホイ♪って、みんながトンガリ帽子の中、タイツかぶって踊りましたよ!
公衆の面前でタイツかぶって踊るなんて、なかなか得難い経験させてもらいましたよ!
あのね、子供には拒否権がないんですよ!
あっても思いつかないの!
トホホのホ!
今もどっかから
「ホーイホーイのドンジャラホイ♪」って聞こえて来ると(たのむやめてくれいっ!)ってあたりを見まわしたくなる。